社長のひとり言2008年

第27回 「家具への想い」

もう、かれこれ7年前に設計監理したお客様からクリスマス会をやるので参加してもらいたい・・・との話しを頂き、先日、行って来た時の話しです。

御主人は東京のホテルでシェフをしておられる方で、当日はその腕を大いに振るわれて、それは美味しい料理をたくさん出して頂きました。(ありがとうございました。)

総勢約20名のパーティーで、ビンゴゲームやカラオケetc・・・、とても楽しい一時(ひととき)を過ごすことができました。が、そのパーティーの最中御主人(H氏)が私を呼び、見せたい物があるので書斎に来てほしい・・・とのこと。何だろうと思いつつ行って見ると、そこにはイタリアの建築家ロドルフォ・ドルドーニがデザインした「HOPPER」という椅子が堂々と置かれているではありませんか!お値段なんと、一脚約80万円!「とうとう買ったんですネ~」という私の問い掛けに満面の笑みを浮べてうなずくH氏。

それもそのはず、7年前の建物完成時に、H氏は今はまだ買えないけど、この書斎に置きたい椅子がある・・・と言っていたのですから。あれから7年。ようやく手に入れたお気に入りの椅子。
しばしの間、私も座らせて頂きましたが、その絶妙な背もたれのカーブはピッタリと体にフィットし眠気さえ誘う絶品でした。(私もほしい~。)

H氏はその椅子を見ながら私にこう言いました。
『私は毎日、お客様に料理を提供していますが、それは時間やコストとの戦いでもあります。偉そうな事は言えませんが、料理はそもそもアート(芸術)的要素の強いもののはずなのですが、コストや時間の狭間で、そのアート性が見失われがちになっていることに私は非常に複雑な気持ちでいるのです。人が芸術やアートに触れたくなる衝動は、そうしたことへの反動で、何か新しいものに向き合うバランス感覚を養う為の前向きな姿勢なのです。日常的でありながら極めて特別な時間を演出してくれるものが私にとってはたまたまこの椅子だったのです。』と。

その帰りの車中でいろいろなことを考えさせられました。
私の経営するタクト設計事務所は建物の設計、施工、監理の業務の他に、オーダー家具の設計、施工も行っているのですが、その家具は機能的には勿論のこと、「アート性」という付加価値をどこまで追求できているのだろうか?H氏の言う日常的でありながら特別な時間を演出する家具とは一体どういうものなのか・・・?

とかく現代はモノや情報が溢れ、物質面が満たされるにつれて人は妙な欠乏間に襲われる事があります。日々のアウトプットの作業に対して知らず知らずのうちに自分自身に豊かさを与えるインプットの行為を欲しているのかもしれません。アート(芸術)性はまさにその欲望を満たす為に必要不可欠なものなのでしょう。

アートとはそれを産み出す側の内面を表現することでもあるので、人々に感動を与える物を作り出す為にはまずは自分自身の内面を鍛え、磨き、そして様々な物を吸収する柔軟な心を持ち続けることが大切なんだと思いました。何の職業でもそうですが「日々精進」です。
人生にゴールはありません。は~、明日もガンバロー。

第26回 「匂う家」

先日、私用で某大学に出向く機会があり、そのキャンパスを歩いている時にたくさんの銀杏が道端に落ちていてあの、独特の、例の「匂い」がキャンパスに充満しておりました。

御世辞にも決して「いい匂い」とは言えませんが、もう20年前になる私が大学の時のあのキャンパスと同じ匂いで、私の心はあっという間に20年前にタイムスリップしてしまいました。

懐かしい音楽を聞くとその当時の思い出が甦る様に、「匂い」もまた、その当時の記憶を思い出させてくれる要素の一つであることは間違いありません。

そう言えば、以前読んだ、『人は見た目が9割』(竹内一郎著)の本の中でこんな文章がありましたので少し紹介いたします。

『私が中学生時代に同級生の女の子がリンスを使い始めた。私たちの世代の男にとってリンスの匂いが女の子の匂いであり、初恋の記憶である。日本でリンスが一般化したのは昭和40年代ではあるまいか。-中略-私たちが子供の頃は便所は汲み取り式だった。便所は「臭くて当然の場所」だった。だが今では「臭くてたまらない場所」は家庭のどこにもないのだ。今、匂いは家庭からどんどん消えつつある、つまり、生活の中で匂いの占める割合がどんどん減っているのだ』

昔、おばあちゃんの家では「蚕」(かいこ)を飼っていた。田舎の匂いと言えば、イコール蚕の桑の葉の匂いだった気がする。

今、我々が設計している家には『匂い』がない。
というよりは極力『匂い』のない住宅を設計する様にしているのかもしれない。何も『匂い』というのは香りのことだけではない。その家庭独特のカラーとでも言うべき固有のものだ。

しかし某ハウスメーカーの研究所ではなんと「匂い」付きの住宅の開発を進めているそうだ。例えば寝室の壁にはラベンダーの匂いをすり込んでおくとか、風呂は「桧」の匂いがするとか・・・「そこまでやるか!」といった感じもする。

家族が集まり、食事をしたり、TVを見たり、会話をしたりしていれば、自然と匂いは出るものです。しかし先に紹介した「人は見た目が9割」の中でも書かれている様に、生活の中から匂いが減っているのは実は、家族が集まって談笑する機会が減っていることの例えなのかもしれません。これは実に寂しい事です。
これからは「匂う家」=家族が集まる家をいかに提供できるかが試される時代が来るのかもしれません。

ちなみに我が家には芳香剤は一切ありません。
多少臭い匂いの場所があってもそれはそれで子供たちの記憶の一部になっていると信じています。

なたの家は「匂い」ますか。

第25回 「夢を売る仕事」とは?

先日、子供を連れてディズニーリゾートに行って来ました。
この年齢になると自分が楽しむ・・・というよりは子供を楽しませてあげたい・・・とか、どこかのCMでやっていた『物より思い出』の要素が強くなります。でも子供の成長は早いもので、そのうち「うざい・・・」とか言って一緒に行くことはなくなるのでしょうかね~(涙)。

ディズニーリゾートに行くといつも感心させられることが2つあります。
一つはアトラクションだけでなく、何気なく建っている建物や装飾品に様々な工夫がされていることです。中世ヨーロッパの建物をイメージしたものであれば、古ぼけた感じを出す為にコケが生えている様に着色したりデザインしたり、又、近未来をイメージしたエリアでは宇宙船の中を再現した様なレストランがあったり、海底をテーマとしたアトラクションであれば、あたかも自分が海底にいるかの様に錯覚させられてしまう潜水艦であったり、どれをとっても中途半端なものはありません。 一つ一つのこだわりが感じられます。これで人は非日常の世界に引き込まれ、そして「また来たい」という感覚が芽生え、結果的にリピーターとなり興業的に成功するのでしょう。

そこには商売の基本が凝縮されている様に思えます。
良い物を売るだけでなく、プラスαの「思い出」を売る、「心」を売る、「夢」を売る
→そこに「満足」が発生し、人はその代価としてお金を払う・・・
ディズニーリゾートに行ってパスポートやお土産を買う時に多少高価かな・・・と思うことはあっても、お金を払って損をした・・・と思う人はあまりいないのではないでしょうか?
家に帰ってからもその土産を見ながら思い出に浸ってニヤニヤ・・・なんてことも。
それが商売の根底になくてはならないものではないかと思います。それを自分自身の仕事にあてはめて考えた時、クライアントが多少高価かな・・・と思っても、私が設計し、監理した住宅や店舗に付加価値を見い出して頂けて、又、機会があれば依頼をしたい・・・と思っていただけているか?(実際、住宅は一般的に一生に一回の買物ですからリピーターにはなり得ませんが、ファンにはなってもらえるはずです)自問自答してしまいます・・・。
「夢を売る仕事が出来ているか?」と。

二つ目はアトラクションだけでなくパレードやパフォーマンスにより常に新しいものを取り入れそれをキャストが演じ、ゲスト(客)を飽きさせない・・・ということです。

特に今回は夏場でしたので、水をまき散らすものがあったりしてとても楽しめました。

パレードもただ行進するのではなく、パフォーマー(キャスト)が我々(ゲスト)に手を振ってくれたり、子供と握手をしてくれたり、時には一緒になって踊ってくれたりと、そのサービスは多彩ですが、決してマニュアル通りやっている行動ではないところが気持ち良かったりします。
そのパレードを真剣な眼差しで見ている子供の様子を見て、これまた連れて来て良かったと思い、親は親で満足したりする、そんな相乗効果がディズニーリゾートにはあふれています。

我々の仕事も「家を建てるお手伝い」=「夢を売る仕事」であり続けたいですね~。
自分が建築士の資格を取得した時のあの新鮮な思いをいつまでも持ち続けていられれば、きっとクライアントが満足してくれる設計も出来るはず。そんな事を思った今回の旅行でした。

第24回 「外断熱と内断熱の善と悪」

一時期、芸能人のラ・サール石井さんが出演していたCMで「外張り断熱」の家というのが流行った。その影響なのか、最近設計している住宅で、クライアントから「外張り断熱にしたいと思うのですが・・・どうですか?」という質問をよく受けるようになりました。
そこで今回は、外断熱(外張り断熱)と内断熱の長所・短所をまとめたいと思います。今後、住宅や店舗の新築や改装を考えている方々の参考になれば幸いです。

まず、外断熱と内断熱とは何か説明いたします。
外断熱とは簡単に言うと構造躯体の外側に断熱層を設置する工法のことで、イメージで言うと魔法瓶の中に住宅の居住部分がある感覚で熱が逃げる欠損部がなくある意味、断熱工法の理想に近い形です。

一方内断熱とは構造躯体の内側に断熱層を設置する工法でこれは柱や梁によって断熱材が分断(欠損)しそこから熱が逃げてしまう欠点があります。

CMで言われていた「外張り断熱」とはもちろん外断熱のことですが厳密に言うとRC造のマンションの様な熱容量の大きい構造物に対して「外断熱」と言い、木造やS造の住宅の様に熱容量の小さい構造物では「外張り断熱」と言うのが正式です。
ただ、一般的にはどちらも断熱の工法は同じですので、総称として「外断熱」と呼んでいます。

ではなぜ、全ての建物を外断熱にしないのでしょうか?
それには大きく分けて2つの理由があります。
一つ目は、外断熱はその特性上、比較的高価な断熱材を使う為コストが割高になり、外壁も厚くなるので窓枠や外壁材の取付金物・・・etc付随する部材にも費用がかかります。

二つ目は(これが大きな落し穴になるのですが・・・)先程、「魔法瓶」を例に出しましたが、外断熱は基本的に全館空調を継続的に行わないとその効果を発揮しにくい・・・というデメリットもあるのです。
全部屋(全空間)が魔法瓶に覆われているわけですから全空間を同じ温度にする必要があります。
つまり、外断熱は断熱材の使用方法以外に空調も合わせて考慮しなければ、意味がない・・・ということになります。
さらに全館継続冷暖房が必要となり、電気代などの面でも問題があります。

しかしその2点以外は外断熱は優れた工法と言えます。
外断熱は基本的に建物の外側を断熱材が覆う為、いろいろな部材に邪魔されず、シンプルな施工が可能で何より断熱層の欠損がなく結露もしにくい。
さらに断熱層が太陽光や雨や気温の急激な変化から躯体を守ってくれることで、躯体の耐久性が高まることも期待できます。

・・・と、まぁ理論的な解析をしましたが、まったく同じ住宅を2棟外断熱と内断熱で建てて住み比べてみた人がいるわけでもないので、本当の良し悪しはわかりません。
私、個人的には『私が小さかった頃、行った田舎のおばあちゃんの家』が一番「家」らしい「家」だった気がします。「家」っていったいいつからこんなに難しくなっちゃったんだろう。「家」って理屈じゃあないと思うんです。気持ち良さのベクトルって個人個人ちがうはずなのになぁ~。

第23回 「岩手・宮城内陸地震」で見えたこと

平成20年6月14日に発生した岩手・宮城内陸地震では、震源地から近い栗駒山東側の各所で大規模な土砂災害が発生し「駒の湯温泉」では土石流により旅館が倒壊し死者まで出ました。

山間部の土砂災害に比べて市街地の建物被害は限定的であり、躯体に影響を受けた建物は目視ではほとんど確認できません。

全壊するような被害は少なかったのですが、建物の外壁材がはく落したり、住宅の窓ガラスが割られたりするなどの被害が目立ちました。 屋内は部屋をひっくり返したように物が散乱しており、地震の揺れが大きかったことを物語ります。

この被害状況を見ただけで建物の耐震性能が昔に比べて良くなったおかげだと判断するには少々疑問が残ります。 確かに昭和56年6月1日に建築基準法が改定され新耐震設計をする様になって格段に住宅の耐震性能はUPしていることは間違いないのですが、今回は振動周期の短い地震であった点が大きなポイントになっています。

過去に発生した地震(新潟県中越地震)などは、1~2秒の周期を持つ地震動であった為、木造住宅に大きな被害をあたえました。
今回の地震は0.5秒以下の短周期であった為「倒壊に至る変形被害は少ない反面、屋根瓦の落下や土蔵壁のはく離などの被害が多かった」と専門家は分析しています。

つまり、今回の地震動がたまたま建物を壊さなかっただけなのです。

私は千葉市の木造住宅耐震診断士として登録をして、年間、数棟の木造家屋の耐震診断をしていますが、やはり昭和56年以前に建築された建物は、法改正の前の耐震基準で設計されていることもあって基礎の配筋が不十分であったり耐力壁(筋カイ)が不足していたりして補強工事を余儀なくされるケースが多いのですが、そこで必ず言われるのが「これで、大きな地震が来ても大丈夫ですヨネ…」というもので、オーナーさんにしてみれば、建築士がチェックしてかつお金をかけて補強工事をしたのだから、もうこれで大丈夫だろう…と思うのも当然なのかもしれません。

確かに建築物は、現行の基準法に近い耐震性は確保されたと思いますが、重要なポイントは建物を支える地盤については補強ができていない…ということなのです。昔は地盤調査などほとんどしていませんので、地耐力がどの程度あるのか不明です。特に隣地や道路との間に高低差があり、ブロックなどで土留めをしている住宅は要注意です。いくら建物が頑丈に造られていても、今回の岩手・宮城内陸地震の様に地震動の周期の短い地震がくれば土留めが倒壊しそれに伴い、建物に重大な被害を与えることが予想されます。

「岩手・宮城内陸地震」で見えたことは、地震は「震度」だけでなく「周期」の要因も重要なポイントで、それは建物躯体ではなく建物を支える地盤に被害をもたらすものであることから敷地に高低差のある住宅は建物だけでなく土留めなどの工作物も補強する必要があるということです。
これについては地域の専門家に相談することをおすすめします。

第22回 「夫婦円満(?)の別寝」

先日 読売新聞に中高年夫婦を中心として「夫婦別寝」と呼ばれる寝室を別にして生活するスタイルが増加している記事が載っておりました。
三井のリフォーム住生活研究所がまとめたデータに依ると「別々の部屋で寝ている夫婦」は実に3割を超えているとのこと。
その理由としては「就寝、起床などの生活のリズムの違い」(44%) 次いて「いびきなどの不満」(33%) 「テレビ、読書など就寝時の習慣の違い」(32%)の順。「一人の時間がほしい」(21%)「室温の好みの違い」(16%)などの理由もあったそうだ。
以前は寝室が別々だと「仲が悪いのでは・・・」という目でみられていましたが、近年はお互いの生活スタイルを尊重し、『別寝』の設計を前向きに考えている人が増えている様です。
この別寝には大きく分けて3つのタイプがあります。
一つ目は、個室の寝室を二つ作る「完全別室型」
二つ目は、広めの一部屋の中央にクローゼットなどを設置することで空間を分ける「別スペース型」
三つ目は家具などをベットの間に置く「家具活用型」が挙げられます。

「完全別室型」なら相手が気にならない。 空調の温度も好みに合わせることが出来ます。
「別スペース型」「家具活用型」は同じ部屋なので相手の気配を感じられることが利点です。 体調が悪くなってもすぐに 気づいてもらえますし・・・

昔は4LDKという間取りは、1FにLDKと和室、2Fに3部屋で内訳としては子供部屋が2部屋で1部屋が夫婦の寝室でした。最近は、子供の数が1人の場合が多く、考えてみたら子供部屋が1部屋で、2部屋がそれぞれ夫婦の寝室になってることが多いのではないでしょうか?

そう言えば、最近、クライアントとプランの打合わせをしていて4LDKではなく3LDKの間取りの要望が多いことに気づきました。 これは2階に2部屋だけなのですが将来間仕切って3部屋になる様に1部屋は広々したものにしてほしいというものであります。
今は子供は1人だけど2人目の子供を設けるかどうかはわからない為、場合によってはそのまま3LDKで不自由しない・・・というものを前提としている発想の様です。 これこそ前記の「別スペース型」の代表的な例ではないでしょうか?
その一方でリビング内階段を採用される方も増えて来ています。
これは家の中に一体感をもたせる考え方で、家族の気配を常に感じられる為に設計する手法です。
「リビング内階段」と「夫婦別寝」の相反する二つの考えの狭間(ハザマ)に垣間見える人間の心理は「一人でいたいけど適度につながっていたい」といったところでしょうか?
そのうち生きている間は「夫婦別寝」で死んだらお墓も別納・・・なんて世知辛い世の中になってしまうのでしょうか?
世のご主人方・・・奥様にたまには花束のプレゼントでもして御機嫌をとっておいた方がいいかもしれませんぞ。 いつの間にかお墓も別々・・・なんてことにならないように・・・。
かくいう私も早速、明日にでも妻に花でも買って帰ろうかなぁ。
あ、でも逆に変に怪しまれるのがおちか~
人間関係て本当難しいですネ。